花嫁と咎人

「お前のせいで、どれだけハインツが苦しんだと思ってんだ…!」


その迫力は凄まじく、


「名誉だの、地位だの!そんなんに囚われてるから何も見えないんだよ!」


父は完全に蹴落とされていた。


「アンタは妻を追放し、その夫も殺した!ハインツの心も鎖で結んで、挙句の果てに自分の娘まで殺そうとした!」


…見守るルエラと、静まる人々。


「分かんないのかよ人の痛みが…!」


ただ彼の悲痛な声が…友の代わりに響くばかりで。


「アルベルタさんはな、アンタがまた自分を利用するんじゃないかって、ハインツやルエラさんに迷惑をかけるんじゃないかって…」


握り締めたその襟首がぐしゃぐしゃになるほどに、彼の痛みが伝わってくる。


「それが心配で…自殺したんだ…!」


刹那、その場にいた全ての人間が、息を呑んだ。

―…自殺。

嗚呼…なんて事だ。


ルエラは真っ赤な瞳を見開いた。

泣き崩れてしまいそうだった。
母を失った。

その痛みは計り知れない物で。

でも…まだ泣けなかった。
全てが終わり、ハインツと再会するまで…まだ、泣けない。


「アンタには分かんないよな…!数え切れない苦しみの中を、たった一人で生きてきた奴の気持ちなんてさ…!」


今にも泣きそうな表情でそう叫ぶオズ。

…そんな彼をルエラは優しく父から引き離し、今度は自分が彼と対峙した。


そして、こう言った。


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