花嫁と咎人
―だが、過ぎ行く日にちの中。
その見えない壁が壊されかけてきた。
フランは毎日少しずつ、こちらに近づいてきて。
俺をじーっと見つめては、帰っていく。
何度も何度もそれを繰り返しては、一日が終わる。
俺は不思議で仕方がなかった。
まるで興味を持っているかのような彼女の視線。
彼女は俺を覚えていないハズなのに、どうして近寄る必要がある。
嗚呼、分からない。
混乱は混乱を生み、淡い期待を抱かせる。
けれど散々期待を抱いた後、突き落とされるのはごめんだった。
きっとそうなってしまえば…もう、俺の心は耐えられない。
だが逆なら、俺はもう一度這い上がれるだろう。
単純で複雑。
己の心すら、こんなに難しい造りだなんて。
そんな事を思いながら再び目を閉じる。
鎖が音を立てて…初めてフランと出会った時の地下牢を思い出した。
嗚呼、なんて残酷で優しい記憶。
けれどそれもまた…フランは覚えていない。
「―…俺は、どうすればいい。」
…痛む心を抱えたまま、俺は眠りについた。