花嫁と咎人

「―…フラン、」


はらはらと、涙を零す彼女の姿。

何故泣いているのか。
もう、訳が分からない。


でもそんなフランを放っておけなくて…
俺は少しだけ笑うと、


「…どうして、泣いてるんだよ。」


そう言った。

それはさぞぎこちない笑顔だっただろう。
けれど…それが今の俺に出来る精一杯の事だった。

すると、彼女は涙を流したまま…俺を見て。


わからないといわんばかりに何度も首を振っては…口を開いた。

でも何も話はしない。
口を開いて、何かを押し出そうとするように、息だけが漏れるばかり。

でも俺はそんなフランの姿を必死に見つめた。

ガラス玉のような瞳。
その濁った瞳が少しだけ光を取り戻した時、


「――――で、も」


僅かだが、彼女の口から小さく声が漏れた。

そして、



「――、い、とし、い―…ひと。」



そう…言ったのだ。


「―…、っ」


刹那、俺は隙間から手を伸ばし…鉄格子ごとフランを抱きしめた。

強く、強く。
その体が自分の腕からすり抜けてしまわないように。


嗚呼、何も覚えていなくても、彼女はどこかで覚えていたのだ。


僅かでも…自分の事を。



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