花嫁と咎人
何も言い返せず、唇を噛む。
「…今度はだんまりかよ。情けねぇ女王。」
彼は呆れたように呟くと、私の腕から手を離した。
…凄く、嫌な気分だった。
腹立たしくて、悔しくて、苦しくて…やるせない。
そう思ったら何故か急に口が開き、話し始める自分がいた。
「…そうね、確かに女王は私よ。すべての責任は私にあるわ。
もしあなたの話が本当で、理不尽にあなたが殺されてしまうのを止める事ができるなら、今すぐにも止めたい!
…でも、できないの、私にはもう…どうする事も出来ないのよ…!」
自分の非力を認めれば認める程、また悲しみが押し寄せて、零れる涙を拭うことしかできなかった。
彼は驚いているのか、そんな私の姿を目を丸くして見つめていた。
「お父様も、お母様も…っサミュエルもエルバートも皆殺されたわ、私にはもう誰も居ないの!
家族も味方もみんなみんな、先に逝ってしまった…!今度は私の番よ!お母様が死んだこの牢で、私も死ぬの!
…誰にも気づかれずひっそりと…骨になって死ぬのよ…。」
だからもう、これ以上辛く当たらないで。
だが、そう言う前に私は泣き崩れた。
これまで何度ドレスの裾を涙で濡らしただろう。
初対面の人にこんな事を言われるだなんて、思ってもいなかった。
それゆえに自分の未熟さを知った。
私は甘やかされて育ったのだと、自負した。
恵まれた環境で育った箱入り姫様にとって、彼の言葉は剣で刺されるよりも痛いものだった。
しかし次の瞬間、彼から思いもよらない言葉を投げかけられる。
「……悪い、少し、言い過ぎた。」
ぶっきら棒な言葉。
でも、先程とは違う幾分か優しい口調。
驚いて顔を上げるとなんとも申し訳なさそうな表情をする彼の姿がそこにはあった。
よく見ると彼もまた傷だらけ。
手の甲やら頬やらに沢山の切り傷が見え、血が滲んでとても痛そう…。
「確かに言われてみれば、姫様がこんな牢で死刑囚と一緒にされるなんてあり得ないよな…。何かあったみてぇだし…。
…ま、まあ、アレだ!
し、仕方が無いから俺がアンタの味方になって…や…、やってもいい…ぜ。」
そう言って恥ずかしそうにそっぽを向く彼から私は、いつの間にか目が離せなくなっていた。