花嫁と咎人

「こうするしか無かった。いずれ姫様は牢に入れられ…恐らく死んでしまう。それを防ぐ為には、脱獄するほどこの国を恨んでくれる誰かが必要だった。」


互いの信じる正義は、大きな亀裂を生じ、憎しみを産んだ。

彼は何を思ったのか、自分の首筋にあてがわれている己の剣を素手で掴むと…
より一層強くその刀身を首に押し当てて。


流れる血は、剣を伝い、


「恨まれるのは当たり前。…その位の覚悟は出来ています。貴方が僕に今すぐ死ねと仰るのなら…それすら厭わない。それに値する程の罪を、僕は犯したから。」


オーウェンはゆっくりと目を伏せた。


「…父のように、僕はなりたくなかった。欲に溺れる人間ほど醜いものは無い。」


ズキン、と胸が疼いた。
オーウェンのその言葉が何故か自分と重なって。


「でもその為に僕は…貴方を犠牲にした。友さえ犠牲にした。」


ならば俺は姉を犠牲にし、母と実父も犠牲にした。


「その罪は、」


その本質は、



「―――…、」


刹那、俺は左手を下げた。

オーウェンの手の平を少しだけ傷つけ、剣が音を立てて床に落ちる。


そしてそのまま壁に寄りかかると…座り込んで。


「もう、誰が味方で敵なのか…分かんねぇや…。」


髪を掻き毟り、大きくため息を吐けば沈黙が流れた。




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