花嫁と咎人
「気を遣ってくれたの…?」
涙を拭いながら私は彼に言う。
しかし、彼は唸り声を上げるなり、
「ち、ちげぇよ…!」
と、私の頭を思いっきり叩いてきた。
「痛い!何するのよこの…っお、おっ…おおおお馬鹿さんっ!」
それに対して負けじと私も言ってみたが、どうにもしっくりこなくて。
「…あれ、お馬鹿…ばか?…この…馬鹿さん?…おかしいわ…」
何度も何度もそう言っている内に、突然彼が小さく笑い声をあげた。
さっきまでの表情と打って変わって、笑みを零す彼の姿に初めはキョトンとしていた私も、いつの間にか一緒になって笑っていて。
牢の中に閉じ込められてから、悲しみで満ち溢れていた心が…少しだけ軽くなったような気がした。
牢獄の中で笑う彼が眩しく見えた。
…どうしてだろう。
嗚呼、とても…楽しい。
暫く笑いあった後、唐突に彼は私に手を差し伸べた。
「姫さん、アンタマジでいいキャラしてるよ。最高。……俺はハインツ。ハイネって呼んでくれ。」
彼…ハイネは微笑んだ。
私はそんな彼の手を握り返すと同じように微笑む。
「私はフランシーヌよ。フランでいいわ。宜しくね…ハイネ。」
そして互いに手を取りあった時…奥から誰かが歩いてくる音がした。
どうやら見張りの憲兵が朝食を終え帰ってきたようだ。
思わず私はハイネの口を手で塞ぎ、彼も私の口を塞いで息を殺す。
憲兵は私たちがいる牢の手前で止まり、背を向けた。
しかし、どうにもその憲兵の様子がおかしい。