花嫁と咎人

エルバートは瞳を見開くと、次いで独特な仕草をした。

もごもごと、口を動かす癖。
それは彼が少し照れている証拠だ。


「照れているの?」


笑いながら私が言うと、エルバートは、


「姫様も人をからかうのがお上手です。」


そう言って、頭をかいた。



―暫くして部屋に戻る道中。

エルバートが神妙な面持ちで口を開いた。


「…病は、国のあちこちで広がっているようです。」


それは、この国の現状。
今、この国では得体の知れない病が大流行していた。

絶対致死の驚異的な感染力を持つ病。

感染した者は十日以内に咳が出始め、高熱、嘔吐…体中に発疹ができるという症状の後、やがて大量の血を吐いて死に至る…。


人々はその病を“緋色の死神”と呼び、恐れているらしい。


「数え切れない程の人が犠牲になっているのね…。」


だが、絶望的な事に病の治療法は今だ見つかっていない。
だからと言って…治療法を他国から学ぶことも出来ない。

何故ならこの国、エスタンシア王国は完全なる鎖国状態であるからだ。

いつ誰が鎖国を始めたのか全く分からないが、他国民を排除し、独自の文化を育てる事を目的としていると生前の父から聞いた。

だがその父も、鎖国には反対していたらしい。


「今日は国政会議があるから…そこで話してみるわ。病や、鎖国について…より良い国を築く為に。」


私は笑顔で、されど強かにエルバートに向き直る。

しかし彼の表情は変わらず、何処か儚げで…きっと私を心配している。

< 4 / 530 >

この作品をシェア

pagetop