花嫁と咎人
エルバートは瞳を見開くと、次いで独特な仕草をした。
もごもごと、口を動かす癖。
それは彼が少し照れている証拠だ。
「照れているの?」
笑いながら私が言うと、エルバートは、
「姫様も人をからかうのがお上手です。」
そう言って、頭をかいた。
―暫くして部屋に戻る道中。
エルバートが神妙な面持ちで口を開いた。
「…病は、国のあちこちで広がっているようです。」
それは、この国の現状。
今、この国では得体の知れない病が大流行していた。
絶対致死の驚異的な感染力を持つ病。
感染した者は十日以内に咳が出始め、高熱、嘔吐…体中に発疹ができるという症状の後、やがて大量の血を吐いて死に至る…。
人々はその病を“緋色の死神”と呼び、恐れているらしい。
「数え切れない程の人が犠牲になっているのね…。」
だが、絶望的な事に病の治療法は今だ見つかっていない。
だからと言って…治療法を他国から学ぶことも出来ない。
何故ならこの国、エスタンシア王国は完全なる鎖国状態であるからだ。
いつ誰が鎖国を始めたのか全く分からないが、他国民を排除し、独自の文化を育てる事を目的としていると生前の父から聞いた。
だがその父も、鎖国には反対していたらしい。
「今日は国政会議があるから…そこで話してみるわ。病や、鎖国について…より良い国を築く為に。」
私は笑顔で、されど強かにエルバートに向き直る。
しかし彼の表情は変わらず、何処か儚げで…きっと私を心配している。