花嫁と咎人
立ってはいるのだが、首がこくり、こくりと上下運動を繰り返している。
どうやら、尋常ではない程の睡魔に襲われているようだ。
「…あの憲兵、アンタが来る前からずっと寝ずに見張りしてんだよ。」
私を近くに寄せ、ハイネは小さく耳打ちをしてくる。
「もう立ってんのも限界なんじゃねぇか?」
皮肉たっぷりに呟くハイネ。
「認めたくないけれど、こんな頼りない見張り番をつけるだなんて…この国も末ね。」
私の言葉に「間違いねぇ。」と付け足し、彼は口元を歪めた。
そしてハイネは視線を憲兵から私へと移すなり、とんでもないことを言い出した。
「…なぁフラン。アンタ…ここから出るつもりはないか。」
驚いて私は目を見開いた。
ここから出るですって…?
こんな密閉された地下牢から出られるわけ無いじゃない…!
どうやら私の表情だけで、彼は察したのだろう。
にやりと口元を浮かべ…こう言った。
「その気があんなら出られるぜ。…最も…アンタに出る気があるならの話だけどな。」
彼の青い目が私を見据える。
だが、どう考えてもおかしな話にしか聞こえない。
「……どういうつもり?…まさか私をからかってたりしないわよね…。」
思わず私が言うと…彼はいきなり両腕を上げた。
そして一言。
「手枷、足枷はもう外してある。…俺はとうの昔から準備万端だ。」
見ると、先程までしっかり付いていたはずの手枷足枷が見事に外れ…石畳の床に置かれたままになっていた。
驚く私を見て、どうだといわんばかりに笑みを浮かべる彼は、さらに話を続ける。
「まず俺があの憲兵をこの枷の鎖で鉄格子ごと縛り上げる。
んで、その隙にアンタが憲兵のポケットからこの牢の鍵を取って鍵を開けた後、あそこに転がっているレンガでそいつを思いっきりぶん殴れ。」