花嫁と咎人

ハイネはおもむろに牢の外に一個だけ転がっているレンガを指差した。


「ぶん殴れ…って、そんな事できないわ…!」


否定する私を気にも留めず、彼は私に言い放つ。


「安心しろ、罪悪感は一瞬だけだ。
…で、アンタが憲兵を昏倒させた後、俺は自分の荷物を探す。
ついでにもう一人どこかの憲兵をぶったおす。
その間にアンタは昏倒させた憲兵の服を拝借し…俺もぶったおした憲兵の服を剥ぎ取る。」


「でも私はドレスを着てるのよ。そんなに早く着替えは出来ないわ…。」


「なら今の内に脱いどけ。」


何食わぬ顔で告げる彼。


「…は?」


「…だから、今の内に脱いどけって言ってんだよ。
どうせその下にコルセットやらカボチャパンツみたいなの着てんだろ。
あ、それとも俺が居るとあれか?だったら俺の事は気にしなくていい。アンタのちんちくりんな体に興味は無いし、襲うなんて面倒くさいこと考えて無いし、寧ろアンタを女と認識してな」


思わず、口より手が先にででしまった。
私の右手が綺麗な半円を描きハイネの頬に直撃するまで一秒未満。

音もなく張り倒され、床に昏倒するハイネ。
張り手をしたはずが無音だった事に疑問を抱いた私は…自分の右手を見てそれが握り拳に代わっていた事に気が付く。

幸い憲兵には気づかれなかったが、ハイネは重症だった。


「…ぅぶっ、」


そう言ってうずくまる彼の頬は、見事に腫れ上がっていて。
我に返った私は彼に駆け寄った。


「ご、ごめんなさい…!私ったら、ついカッとなってしまって…!
嗚呼、人を殴ってしまったわ…!こんな事するつもりはなかったのよハイネ。本当よ!」


「…大丈夫だ、俺はこんな事でへこたれる様な男じゃねぇ…。」


まるで死に際の兵士のように訴える彼は、頬を押さえながら起き上がる。

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