花嫁と咎人

『俺はここからは逃げるが、アンタらからは逃げねぇ。』


確かこんな事も言っていたような―…


ふと思い出した、その時。


キィィィィィィイ!


金属が軋む音を響かせて、


「―…!、何だ…?」


馬車が急停止した。

と、同時に…


「フ…ハハハハハッ!ついに血迷ったか死刑囚め…!」


気持ちの悪いほどに響いたのは…父の笑い声。

瞬間、とても嫌な感覚に襲われてオーウェンは馬車から飛び降りた。


すると笑う父の先、
そこに居たのは…



「―……!」



真っ赤に染め上げた己の剣を持ち…


「わざわざお出迎え、どうも。」


微笑を浮かべるハインツで。

彼はその笑みを絶やさないまま、自分の剣を地に放り投げると、


「降参。」


だなんて言ってみせる。


―…嗚呼、馬鹿だ。
何をやってるんだこの人は。

早く逃げてくれ。

早く逃げろよ…!


そう思っても声が出ず、オーウェンは目を見開いて立ち尽くすばかりで。



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