花嫁と咎人


「―…ハイ、ネ…!」


記憶の中で彼が微笑んだ瞬間、



「…っ…う、うわああぁあああ…!」



私は泣き崩れた。


「…ハイネ、ハイネ…ハイネ…!」


彼の名を何度も呼んで、手の中にあるピアスを握り締めては泣いた。


どうして。

どうしてどうしてどうして。


どうしてこんな事になってしまったの。


自分自身、何が起こっていたのか…それは全て理解していた。


ナイフが刺さって、“緋色の死神”に感染してしまった事。
記憶喪失になっていた事、声が出なくなった事。

どうやってここまで来たのかも、
何が起こったのかも全部覚えているのに。


ずっとあなたは私の側にいたのに。


私は…あなたが誰なのか分からなかった。


泣いても、泣いても…苦しみは、悲しみは消えなくて。


「…どこに行ってしまったの、どこ行ってしまったのハイネ…」


私の側にいたはずのあなたは、もうどこにもなかった。


もう会えないかもしれないってどう言う事?

ずっと側に居たかったってどう言う事?


「さようならなんて…言わないで頂戴…」


目の前の彼の残像に縋るように、私は延々と泣き続ける。


急にいなくなってしまったら私はどうやって生きていけばいいの?




もうあなた無しでは生きられないのに。




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