花嫁と咎人

あの牢にいたのが彼でよかったと、本当にそう思えた。


「なあ、フラン。ところでアンタ…この国の地図とか分かるか?」


すると、突然ハイネはそう切り出した。


「他所者だから全然わかんねぇんだよ、この町の名前とか。
この森を出るとどこに続いてんのかすらすらわかんねぇし…もしかしたらこの先に城壁があるかもしれないしな。」


前を歩く彼の言葉に、思わずギクリと肩を震わせる。

…城から一歩も出たことの無い私は、勿論地名など何一つ知らない。
ましてやこんな森入ったことも無い。

いつも窓から国を見渡していたけれど…城壁がどの辺りにあったのかさえ曖昧だ。


どうしよう。


自然と足が重くなる。
言ったら怒られるかしら、嫌だわ。

そう思っている内に完全に足は止まってしまって。


「…ん?どうした?」


振り返る彼の顔を見て…余計に胸が痛くなる。

だけど、嘘を付く訳にはいかない。


「…じ、実は…私…城から一歩も出た事無いの…。」


思い切って言ったその先に待っていたのは、極端に肩を落とすハイネの姿。


「…マジかよ。」


なんだかとても申し訳がなくて、思わずうっと涙が出そうになるが…彼は仕方ないな…と言って再び歩き始めたのだ。

思いがけない出来事に驚いた私は、ハイネに問いかけた。


「おっ…怒らないの…?」


すると少々呆れた様な声で返事が返ってくる。
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