花嫁と咎人
彼は怯える私を引き連れ、憲兵達の前へと姿を現した。
「…何用であるか。」
勿論…私たちの突然の登場は彼らにとって予想外のこと。
槍を交差させ、それ相応の対応をされる。
しかしハイネは一歩も引かず、強い口調で告げた。
「そこを通して頂きたい。」
するとやはり目の前の憲兵達は不審な表情で私達を見る。
「……お前、名はなんと言う。」
その憲兵達の中で最も威厳のあるような男が一歩前に出て、ハイネと対峙する形になった。
心の中で焦る。
この服を着ていた人の名前なんて知らないわ…!
ハイネ、一体どうするつもりなの…?
「…ライアン・リーゲル。」
だが、彼は堂々とそう告げた。
そして男が首を傾げる隙すら与えず…口を開く。
「我らは国王補佐であらせられるサミュエル様より、直々に女王陛下の愛猫を捜索せよとの命令を承った。女王陛下の愛猫はこの森を通り城下町へと出て行ったそうだ。」
…は?
まさかの口実に私は思わず口を開け、ハイネを見てしまった。
女王陛下の愛猫!?
私、動物なんて一匹も飼ったこと無いわ…!
「……ほう、あのサミュエル様から直々に捜索の命が下るとは…余程女王陛下に愛でられた猫なのであろうな。」
フッと鼻で笑い、男はハイネに引き続き疑惑の視線を向ける。
「まあいい、という事は…この門の通行許可証を持っておるのだろうな?サミュエル様の印が刻まれた、通行許可証を。」
そして止めの一言。
通行許可証なんて、持ってない。
ましてやサミュエルの印が刻まれているものなんてそうそうないし、第一サミュエルはもう、この世にはいないのだ。
もしこの憲兵達がその事実を知っていたら…?
私が顔を伏せ諦めかけたその時だった。