花嫁と咎人
…廊下の奥。
そこに見知らぬ黒い髪の少女が立っていた。
だが彼女の体の輪郭は妙に輝いていて、先程のサミュエルのように向こう側が透けている。
「―…あなたは…」
そう口にした時、彼女は口元に人差し指をあてて私を手招きすると…にこりと微笑む。
「…?」
私は呼ばれるまま彼女の近くに向かうと…
一枚の封筒を手渡された。
『あの人に、伝えてください。』
「…え?」
『もう、私に囚われないで、と。』
そして彼女はふわりと黒髪を揺らし、最後に涙を流しながら消えてゆく。
『あなたに罪は無いと。』
完全に消え去る前に…彼女は小さく呟いた。
“ ”
「あなたは、そう、そうなのね…。」
私はその言葉を聞くなり、その封筒を優しく手で包み込む。
それからアルベルタさんの“思い出”の中に挟みこむと、再び走りだした。
複雑な城の中を、息を切らしながら駆け巡って。
階段を上がり、下がり…
広場へと続く通路を捜す。
早くしなければ。
焦燥感に苛まれ、心が痛んだ。
だが、その道のりは険しく…一筋縄では行かなくて。