花嫁と咎人
ハイネは堂々と男の前に何かを突き出した。
ほら見ろよ、と言わんばかりの顔をして、彼が持っていた物。
「―あっ、」
それは私が持っていたはずのサミュエルの日記だった。
どうして今まで気づかなかったのか!
そう、その日記の裏表紙には紛れも無く国王補佐であるサミュエルの印が押された、全国共通通行許可証が貼り付けられていたのだった。
泣きながら何度も目にしたあの日記。
でも…どうして、ハイネが持っているの…?
確か地下牢から脱出する時にちゃんと服の中に―…。
しかし私が何度服の上をなぞっても、そんなものはどこにも無くて。
「さあ、通してもらおうか。」
言うなり、彼は私を連れて槍を構え立ちはばかる彼らなど気にも留めず…門をくぐり城壁を後にした。
…男の悔しそうな顔を、存分に楽しみながら。
―…城壁を越えるとまだ少しだけ森が続いていた。
暫く歩いた後、私たちはそっと木陰に隠れて休憩がてらに腰を下ろす。
「~…っあー!くそ疲れた、もう一生憲兵になんか会いたくねぇ…。」
すると真っ先に愚痴をこぼしたハイネ。
平然な態度を装っていた割には焦っていたらしい。
胸に手をあてて木にもたれ掛かる彼の姿を見て、ハイネもまた自分と同じような気持ちだったのだと確信する。
「凄いわハイネ、あなた…本当に口上手なのね。…それにしてもどうしてあなたがサミュエルの日記を持っていたの?
それに憲兵の名前や、この印が通行証だとどうして分かったのかしら…。」
それから私はそんなハイネにずっと気になっていた事を問いかけた。
…とても気になった。
その口上手な所、すぐに機転の回る所。
私が彼と出会い、今までの彼の行動を見てとても不思議に思った。
失礼だけど普通の人には思えない…。
「日記はアンタが落としたんだよ。ほら、牢の中で憲兵をレンガで殴ったろ。その時。」