花嫁と咎人
だがハイネの回答は、さほど大したものではなく。
「あと憲兵の名前は、牢の中でずっと聞いてたから。ちなみにアンタのその制服を着ていた憲兵の名前はクリスチャン・モンテカルロ。
こいつすげぇ臆病者で、俺が枷の鎖鳴らす度に声あげてビビッてたな。今思い出すだけでも笑えるぜ。」
とはいえそんなこと、されどこんなことが、やがて私達を救い…
「通行証はあれだ、俺がこの城まで連行された時に…俺を連れてきた奴が何回かこれを憲兵に見せてるとこを見てたってワケ。…アンタの日記拾った時に裏表紙見てピンときた。」
これから進むべき未来を開拓させた。
このまま地下牢で死ぬ運命だった私を救ってくれた。
あなたはそうは思っていないかもしれないけれど…
私に生きるという選択肢を与えてくれたのよ。
「……そうだったの、でも凄いわ…。あなたは本当に凄い人よ。私はあなたに救われた…本当に…」
あなたには感謝しきれないわ。
しかし、それを言う間もなく…私の目から涙が零れ落ちた。
ハイネに対する感謝や安心、沢山のものが混じって私はまた泣いてしまう。
「なんで泣いてんだよ…。ホント訳わかんねぇ姫様だな。」
そう呆れ気味に言いながらも優しく抱き寄せてくれるハイネ。
「…っ、ご、ごめん…なさい…」
「ああもう、分かったから喋るな。気が済むまで泣いとけ。仕方ねぇからそれまで待ってやるよ…。」
もし追っ手が来て捕まったらアンタのせいだからな、と言って彼は溜め息をつく。
優しいのね。
その優しさに甘えるように暫くの間、私は彼の腕の中で泣いた。
一度に色んな事がありすぎて、自分でもどうしていいのか分からなくなっているのだろう。
でもこんな所で挫けては駄目なのだ。
しっかりしなければ。
命をかけて私を守ってくれた人たちの為にも…。
自分を奮い立たせるように、心の中で何度も呟く。
そして何度か頷くと、涙を拭い立ち上がった。