花嫁と咎人
…丁度月が暗闇を照らし始めた頃。
私はかつて母が愛した薔薇園に来ていた。
ランプに照らされて輝く色とりどりの薔薇。
気高きその香りに酔いしれながら、私は小さく息を吐いた。
―…眩暈を起こしてしまいそうな程に、駆け抜けた沢山の出来事。
全てが終わった直後に、私は嘘を吐いていた事をハイネに何度も謝られた。
けれど、実際…今となってはどうでも良い事で。
確かにハイネが国王だと聞いた時はとんでもなく驚いたけれど…
ハイネと再会できた。
私としてはそれだけでもう、十分だった。
…でも、国を明け渡してしまった今。
私は敗国の女王で。
即ち、只の小娘。
世界的大国の国王の彼と共にいる事など到底無理な事であった。
例えお互い愛し合った仲だとしても…
きっと女神様は許してくれない。
「…理不尽ね。」
黄色の薔薇の花をそっと頬に寄せながら、私は溢れそうになる涙を必死に堪えた。
これから自分がどうなってしまうのか。
分からない不安と、寂しさ。
冷たい夜風が髪を揺らした時、
誰かが、私を後ろからぎゅっと抱きしめた。