花嫁と咎人
彼は跪き、私の手を取ると…小さく口付けを落とす。
「この国には悪しき考えをもつ輩が犇めいておりますゆえ…。どうか、ご慎重に動かれますよう。」
ひそめた眉。
伏せた紫色の瞳。
「貴女を利用しようと目を光らせている者、亡き者にしようと剣を構えている者…国王亡き今…標的は貴女、ただひとり。」
「…エルバート…。」
彼が私を心配してくれているのが、痛い程分かる。
「…特にシュヴァンネンベルク公ラザレスにはお気をつけ下さいませ。奴はその地位を盾に権力を剣に、何やらよからぬことを企てているように感じます。」
…彼は真剣だった。
私の手を通して、震える温もりが伝わってきて。
「ラザレスは公爵家。姫様の意見を覆すことすら容易く出来る立場。…お気を抜かれぬよう。」
そんな彼の手を強く握り締め、私は再度エルバートを見つめた。
「…ありがとうエルバート。今はあなただけが私の家族よ…。
あなたの警告はこの胸に刻んでおくわ。」
彼もまた、私を見つめては微笑む。
「…女王陛下に、神の加護があらん事を。」
しかし、会議は思いもよらない展開を向かえることとなる。