花嫁と咎人

 ◆ ◇ ◆


フィレンツィリア王国。
アンダーレスリバー。


「………」


オズは一人、崖の側で座っていた。


手の中にあるのは封が切られた封筒と、一枚の写真。
…そう、それはフランから貰った物だった。


「“もう、私に囚われないで”…か。」


彼女が言った事。
それがもしも本当ならば。


「立ち止まってばかりいるなって…事だよね。」


ポタリ。
ポタリ。


雨が降り出した。

次第に雨脚も速くなって、どんどんと服は雨に濡れていく。


―…好きだった。
本当に、好きだった。

でも。


いつまでも面影を追いかけてばかりじゃあ…駄目なんだ。



するとその時。
自分に降りしきる雨が何かによって遮られた。

見上げれば、視界に写ったのは黒い傘。
そして、見覚えのある女性。


「―…シャル。」


「風邪、引いちゃいますよ。…キャプテン。」


そんな彼女はオズを見るなり、優しく手を差し伸べる。


「…それ、本心?」


冗談めかして言いながらも、彼は彼女の手をしっかり取り…立ち上がった。
傘を持ちながら、シャルは無言で微笑む。

滅多にない沈黙。
でも、それすら、オズにとっては癒しの時間だった。
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