花嫁と咎人
「…諦めるな。さっきの人に聞いたらブロックス通りはもう目と鼻の先らしい。…ほら、しっかりしろ。」
しゃがみかけた私の体を支えるように彼が背中を叩き、何とか私はもう一度足を進めた。
目と鼻の先ってどこ…?
もう歩けないわ…。
自問自答を繰り返すうちに私は心細くなって、気づかない内にハイネの腕を抱きしめる。
その時思わず、エルバートを思い出してしまった。
いつも私の側にいてくれたエルバート。
悲しい時も辛い時も嬉しい時も…片時も離れずにいてくれた私の騎士。
「……エルバート…。」
「…俺はエルバートじゃねぇよ。」
小さく呟いた私にハイネは舌打ちしながら言ったが、決して手を振り払おうとはしなくて。
「優しいのね、ハイネ。」
私の言葉に対し彼は何も答えなかった。
それから暗くなる空を見上げ、俯きを繰り返しながら、暫く歩き…。
「ブロックス通り3-24。フラン、アンタは間違ってなかった。」
彼の言葉を聞いて私は顔を上げる。
“エキドナ”と書かれた看板が風に靡いて揺れている、こじんまりとした一軒の酒場が目に入った。