花嫁と咎人


「…こ、婚礼…?!貴方、自分が何を言っているのか、分かっているの?!」



私は盛大に怒鳴りながら立ち上がった。

―響く声に、押し黙る貴族達。


会議室は一瞬にして妙な沈黙に包まれる。


周りの上流階級の面々は驚いた表情で私を見たが、


「…おやおや、そう激情なされますな女王陛下。」


ただ一人、長い黒髪の男だけが不適な笑みを浮かべ口を開いた。


「…貴女様はもう齢十八…御成人なさった身。そろそろ、跡継ぎを生んで頂かねば。」


シュヴァンネンベルク公ラザレスこと、ラザレス・イヴァン・シュヴァンネンベルク。

この男こそ、エルバートが用心しろと言っていた人物。

そしてこの男はたった今、あろうことか私に“結婚しろ”と言ってきたのだ。


「ふざけるのも大概になさい!」


あまりにも不謹慎なラザレスの発言に、思わず激高して声を張り上げる。


「…今やこの国は壊滅の危機です…!病で人々が苦しみ、相応の治療も、予防法も、薬もないまま…今も死者は増え続けているというのに…!」


一体、この男は何を考えているのか。

…分からない。


「こんな時に女王の婚儀など、戯言も甚だしい!今、専念すべきことは他にあります!」


< 6 / 530 >

この作品をシェア

pagetop