花嫁と咎人
「…こ、婚礼…?!貴方、自分が何を言っているのか、分かっているの?!」
私は盛大に怒鳴りながら立ち上がった。
―響く声に、押し黙る貴族達。
会議室は一瞬にして妙な沈黙に包まれる。
周りの上流階級の面々は驚いた表情で私を見たが、
「…おやおや、そう激情なされますな女王陛下。」
ただ一人、長い黒髪の男だけが不適な笑みを浮かべ口を開いた。
「…貴女様はもう齢十八…御成人なさった身。そろそろ、跡継ぎを生んで頂かねば。」
シュヴァンネンベルク公ラザレスこと、ラザレス・イヴァン・シュヴァンネンベルク。
この男こそ、エルバートが用心しろと言っていた人物。
そしてこの男はたった今、あろうことか私に“結婚しろ”と言ってきたのだ。
「ふざけるのも大概になさい!」
あまりにも不謹慎なラザレスの発言に、思わず激高して声を張り上げる。
「…今やこの国は壊滅の危機です…!病で人々が苦しみ、相応の治療も、予防法も、薬もないまま…今も死者は増え続けているというのに…!」
一体、この男は何を考えているのか。
…分からない。
「こんな時に女王の婚儀など、戯言も甚だしい!今、専念すべきことは他にあります!」