花嫁と咎人
Chapter.2
変装と追跡
◇ ◆ ◇
エスタンシア王国・エステリア城。
時は真夜中。
今だ煌々と明かりが灯されているシュヴァンネンベルク公ラザレスの部屋にて、突如一際大きな叫び声が轟いた。
「…何?!
王族の証がどこにも無いだと…!」
怒鳴り散らかし怒り狂うラザレスと、彼の足元に跪き深々と頭を下げる憲兵が二人。
地下牢監視役にして、唯一フランが幽閉されていた事を知っている人物…ライアン・リーゲルとクリスチャン・モンテカルロだ。
…彼らはそう、フランとハイネに殴られ、制服を奪われた憲兵達であった。
「は、はい…ラザレス様。
国王補佐サミュエル・オンド・クロイゼング様のお部屋、ご遺体…エルバート・ローゼンハインの服飾品…並びに女王陛下のお部屋をくまなく捜索致しましたが、そ、そそそのような物は、な、何も…」
「この阿呆共が!貴様等の失態のせいで計画が台無しだ…!」
より一層大きな罵声を浴びせられ、彼らは只震えるしかない。
だが、悲劇はそれだけでは済まなかった。
「…貴様らは明日からもう来なくていい。」
「……え?」
突然の言い渡し。
そしてラザレスの親指が首の端から端へと横に一文字に動かされた。
その意味を知ったとき、彼らは顔を真っ青にしてこう請い願うのだ。
「そ、そんな…!ラ、ラザレス様…!どうかそれだけはお許しを…!」
「嘘だ、そんな、嘘だ…!」
発狂寸前で部屋から追い出される二人。
だが向かう先はもう自室ではない。
冷たい牢の中。
明日向かうのは…断頭台。
「貴様らは、用無しだ。」
それは悲鳴だろうか、絶叫だろうか。
まるで地獄から発せられるような声を聞きながらラザレスは微笑を浮かべる。