花嫁と咎人

「では、国民や王国騎士団、憲兵達にはなんと伝えれば宜しいですか。この一件は父上と僕…先程の憲兵や一部の者達しか知りません。」


「その辺はお前が適当に取り繕っておけ。死刑囚の方はこの際どうなっても構わん。」


「女王を、一日でも早く探し出せ。」


「…承知いたしました、父上。」


抗えぬ命を受け、一礼をする。
いつもの無表情を決め込んだまま、部屋を出たオーウェンは…足早にとある人物の部屋へと向かう。
階段を何階か下り、暫く歩いた先に見えてきた質素な扉。

無言でその扉を開けると、途端に焦げ臭い匂いが部屋から溢れ出た。


「…こうなる事を知って、全て燃やしたか…エルバート。」


部屋の中に散らばる無数の残骸。
それら全てはほぼ灰と化し、原型さえ留めていないものばかりだった。


「証拠も無い、行く先も分からない…。だが、エルバート・ローゼンハイン。お前には親しい人間がたった一人だけいただろう?」


足で残骸を退けながら、かろうじて原型を留めている机の前までやってくると、そこに置かれたワインのコルク栓を持ち上げる。

黒く煤けた何の変哲も無い只のコルク栓。


「…そうだ、このコルク栓。昔お前と一緒に飲んだワインのコルク栓だ。これが付いたワインは一体どこで売っている…?」


オーウェンは瞳を閉じる。
そして…冷徹な瞳でにこりと微笑んだ。





「―…教えてくれ。エルバート。」



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