花嫁と咎人
◇ ◆ ◇
「本当にいいんだね…?」
タリアの問いに鏡の前に座ったままの私は、真剣な眼差しで大きく頷く。
「…はい、どうぞ一思いに。」
「そうかい。じゃあ、遠慮はしないよ!」
そして―…
ジョキン!
何かが切れる音と共に、見覚えのある栗色の髪が大量に床に落ちた。
「嗚呼っ、私の髪の毛!」
先程まで自らの一部として活躍していた髪の残骸を一つまみし、私は涙をこらえる。
そう、私は…今日から男装をする事となったのだ。
…事の始まりは朝。
既に私達の捜索に出たラザレスは、私の容姿…ハイネの容姿を書いた紙を国中にばら撒いた。
そしてその情報をいち早く教えてくれたタリアの提案で、不本意ながらも男装という形で変装する他手段が無くなってしまったのだ。
それにハイネはずっとバスルームに閉じこもったままで、中々出てこない。
一体ハイネは何をしているの?
そう考えている内にも、私の髪は段々と短くなり…
「ほら、これでどうだい!」
気が付けば私の栗色の長い髪は面影も無く消え去っていた。
「…これじゃあ、男の子だわ…」
思わず頬に両手を沿え、まん丸に目を見開く。
「当たり前だろ?じゃなきゃばれちまう。」
「ああっ、でも、こんな…っ、もう私、結婚できない…!」
だが悲しい事にもう元には戻れない。
勿論男用の服もバッチリ揃えてあり…私は渋々それに袖を通した。
「うん、ぴったりだね!…全く、そんな顔しなさんな。あんた元が綺麗だから、男の格好しても普通にイケてるよ。」