花嫁と咎人

嗚呼、タリアの慰めが余計に辛いわ。
そう涙をうっすら浮かべて、タリアの方を向いた時だった。

不意にバスルームの扉が開き、刹那現れた人物を見るなり言葉を失った。

そこから出てきたのは新しい服を身にまとった…私と同じ栗色の髪をした男の人で。
髪の毛は短く、でも、この家にいるのは私とタリアを除いてたった一人だけ。

だからこの人はきっと…。


「ハ、ハイネ…なの…?」


「…うっせーよ。ジロジロ見んな。」


ダークブルーの瞳、聞き覚えのある声音。
間違いない…彼はハイネ。

その変貌振りに驚いた私は、思わず駆け寄りその姿をまじまじと見てしまう。


「髪を切ったのね…!でも…染めてしまったの?あんなに綺麗な銀色の髪を?」


だが少し残念な気もした。
ハイネの銀髪。
とても綺麗だったのに…。
私と同じ色になってしまったわ…。

しかし、落ち込む私を横目にハイネは「ハァ?」と呆れ顔で笑うと、


「誰が切るか。しかも染めてねぇよ。これはヅラ、カツラ!勘違いすんな。」


そう言って自分の髪を触ってみせる。

だがどう見ても本物にしか見えなくて。
タリアが「本当にそれはカツラだよ」と言ってくれるまで、私は信じようとしなかった。

…ハイネには髪を切りたくない理由があるようだった。
それは彼の故郷での風習に関わりがあるようで。


「俺の故郷には古くからの習わしがあるんだよ。」


その後タリアが作ってくれた朝食を食べながら、ハイネはその訳を説明してくれた。


「…?習わし?」


「髪を切るなら、其れ相応の意思と決意と誓いが必要なんだよ。はい、終わり。」


勿論、とても乱暴にだけど。
そしてそれ以上彼は何も話してはくれなかった。

昨日タリアと何を話していたのかさえ…。

やはり、秘密。

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