花嫁と咎人
私はただ、その光景を見つめる事しか出来なかった。
汚れた刀身を布でふき取り、私の所に戻ってくる彼の表情はとても悲しそうで…
「…生き地獄より、残酷なものはない。」
一言だけ呟き、黙々と足を進めた。
ここら一体の住宅街は、ほぼ死滅していた。
生きとし生けるもの全てが息絶え、辺りは嫌な臭いが立ち込めている。
歩いても歩いても、霧は消えず…鬱憤とした空気は晴れない。
私達もお互い黙ったまま早足で街を駆け抜ける。
ここが本当に、タリアが住んでいた場所と同じ所なの?
信じられない光景は、私の心を痛めつけた。
救いようの無い死の病。
一体どうしてこんな事になってしまったのか。
疑問は、夕日のように沈んでいった。
…暫くして森が見えてきた。
気がつけば刻々と宵闇が迫っている。
これ以上歩くのは困難だと判断した私達は、野烏の不気味な鳴き声が響き渡るこの森の中で、一夜を過ごす事に。
「…寒いか?」
寄木に火を灯しながら、ハイネは私に言う。
「いいえ、大丈夫よ。…でも、夜の森はこんなにも冷えるのね。」
小さく震える体を抱きしめ、私は目の前の炎に目をやった。
揺ら揺らと小さく揺れる光。
…この一週間で沢山の事が起こった。
想像すら出来ないくらいに、変わってしまった私の人生。
現実を目にし、鳥かごから出たばかりの箱入り女王には、少々変動が激しすぎたようだ。
そのせいか、口に入れたサンドウイッチが喉を通らない。
それどころか、妙に胃が痛む。
…せっかくタリアが作ってくれたのに。
無理に口に運ぶも、身体が拒否していれば減るはずもなく。