花嫁と咎人
「お腹が、きりきりするわ…。」
それを聞くなり、彼は着ていた上着を脱いで私の肩にかけると優しく自分の隣に寄せ、背中をさすってくれた。
「…初めからそう言えばいいだろ、そんなに俺が信用ならねぇか。」
そして私の鞄から鉄製のコップを取り出すと、その中に水を注ぎ…焚き火にかける。
「アンタが信用してくれなきゃ、俺がいる意味ねぇだろ。それともアレか、俺が嫌いとか。」
その言葉に思わず私は反論する。
「違うわ、そんな事ない、私はいつだってハイネを信用してるわ。…ただ、」
「……ただ?」
「あなたに迷惑な奴って思われたくなかったの…。これ以上心配させたくなかったの。…世間知らずの足手まといになりたくなかった。」
ハイネの上着ををぎゅっと握り締めながら私は自分の思いの丈を告げた。
…何故かしら、あなたにだけは嫌われたくないの。
するとハイネの口から大きな溜め息がもれた。
無言で温まった水を渡され、飲むように促される。
そして彼は真っ暗な夜空を見上げたまま、小さく言った。
「…馬鹿。」