花嫁と咎人
◆ ◇ ◆
「で…、女王は見つからなかったと。」
「申し訳ありません、父上。」
ラザレスは、いつも以上に苛立っているように見えた。
跪くオーウェンの顔の横すれすれに短剣が弧を描き、床に突き刺さる。
…子を殺すつもりか、この人は。
我ながら散々な親を持ったなと、オーウェンはつくづく思った。
「それで今、あの女店主はどうしてる。」
机の上に足を乗せ、眉間にしわを沢山寄せたままラザレスは歯軋りをする。
「地下牢にて監禁中でございます。…なにやらあの女、色々と通じているようで、かのエルバートとも面識があったとか。」
「ほう、エルバートとな。」
「…ですが何を言っても口を割らず、強気な態度のままで困っております。」
そう、あのタリア・ヴァレンティン。
どんな脅しを掛けても、絶対に口を割らない。
「どんな事をしても構わん。聞き出せ。いいな。」
「承知。」
一礼し、オーウェンが部屋を出ようとしたとき、ラザレスに呼び止められ、足を止める。
「…そうだ、オーウェン。…前から言おうと思っていたが…その、睡眠薬の入った香水をつけるのはやめろ。睡魔が襲って敵わん。」
……ああ、そんな事か。
「お言葉ですが父上、僕は極度の不眠症でこれがなければ眠れません故。何卒ご協力頂きたく存じます。」
にっこりと笑顔を振りまきながら、再度一礼し退出する。
父の不機嫌そうな顔が見えたが気にはしない。