花嫁と咎人
「あーあ、泣かないでよ。ま、でもこの際どうでもいっか。どうせそんなに金も持ってないんでしょ。なら…」
すると彼は信じられない事に、私の服のボタンに手をかけ始める。
え、そんな、嘘…!
首を振って必死に抵抗するけれど、力の差ではどう考えても勝てなくて。
「、嫌、やめて…!…、っ!」
いくら叫んでも届かない。
その間にもベストのボタンは器用に全部外され、今度はブラウスのボタンへと指が添えられる。
一つ、二つ。
ボタンを外される度に首筋にキスを落とされてその手はどんどん下へと下っていった。
「…ひ、ぅっ」
ゾクリとした感覚に躰が怯え、涙が溢れた。
いくら世間に疎くても…自分の行く末くらいは想像がつく。
もう力さえ入らない。
成す術のない私は…ただ、信頼できる人の名を呼ぶ事しか出来なかった。
「…イ、ネ…」
そう、それは私の唯一の支えである人の名—。
「、イネ…ハイネ、助けて…っ、!」
すると、私がハイネの名を叫んだ瞬間…男の手が急に止まる。
「…え…、今…なんて…」
そして私から少しだけ離れたその刹那。
突然、目の前の男は何者かによって突き飛ばされ…豪快に地に伏した。
「―この、ゲス野郎!」
男を殴り飛ばしたであろう張本人。
見覚えのある姿、聞き覚えのある声。
その姿を見たとき、私は溢れる涙をこらえる事が出来なかった。
「……ハイ、ネ、ハイネ…!」
開けた服を掴み、何度も何度も彼の名を呼んでは泣き喚く。
するとハイネは私の方に振り返り、肩を掴むと大声で怒鳴った。