蜜蜂
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「え…なんでって…」


彼女は首を傾げた。
なんでそんなに不思議そうなんだろう。


「だってね、考えてみなよ。」


彼女も止まり、腕を振り払うことなく俺を見る。


「みんなは私の名前知らないのよ?」


「…」


いや、そんなことわかってるけど。
俺が引っかかってるのは、そんな根本的なこと…なのか?
違う、そんな簡単なことに引っかかってるわけじゃなくて。


「……名前を、知らない…?」


独り言のように呟く。
そして、自分で言葉にして初めて気づいた。

名前を知らない、それはつまり、









【澤木杏花】という存在がないことと同じじゃないのか…?






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