蜜蜂
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「人間は欲張りだから、完璧を求めるんだ。容姿だけじゃなく中身もね。
……綺麗とか可愛いとかかっこいいとか、かなり無責任な言葉だよな。
愛を語る次ぐらいに、酷い言葉。
そういうやつは、中身を知った瞬間態度が変わったりする。冷めた目で見てくるんだ。
…杏花なら、好きな男にそんなことされたらどう思う?」


話をふってみた。彼女は少し驚いたようだったが、素直に考え始める。


「私なら…傷つくよ。”私”を見てもらえてたはずなのに、”私”を見せた途端にそんなふうなんて…」


少しうつ向きながら答える彼女に、何故か感謝の気持ちで一杯になった。


「うん…束沙とか明菜とか美咲はそれの被害者。
どんなに好きになっても、受け入れてもらえなきゃ意味がないから。
…よく泣いてたんだよ、俺に聞こえないように、声殺してさ。」


思い出す、昔。
まだ、あいつらの泣く意味がわからなくて、隠れて見ていることしかできなかった俺。
「笑って」と、心の中で何度も言った。




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