蜜蜂
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リカを放置したまま、彼女を探す。
あんなに目立つ蜂蜜色なのに、何故か見つけられない。
逃げられているという事実さえ受け入れたくない現実なのに、余計に不安になてくる。


「杏花…。」


名前を呼んだって、彼女が現れるわけないのに。
そんな些細なことにすがりたくなるほど、彼女に会いたかった。


「お、東条くん、君いいところにいたなぁ。」


振り返ると、少し頭が薄くなった初老の教師がいた。
確か…世界史の先生…だよな?
俺らの授業忘れてたやつ。


「いやー男手探してたんだ。」


少し膨らんだ腹をそらせながら笑い、眼鏡をかけた人の良さそうな顔で俺の背中を軽く叩きながら言った。
そして、


「ほい、これ資料室まで頼むよ。」


渡されたのは、壁に吊り下げる形の世界地図と、資料集の束。
かなり重い。



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