蜜蜂
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「…先生、俺やるって言ってな…」


「森田先生、他にもあります?」


俺の言葉を遮った声。
職員室のドアを背中で器用に開け、手に箱を抱えた彼女が出てきた。

探していた、蜂蜜色の彼女。


「大丈夫だよ澤木くん、東条くんも手伝ってくれるみたいだから。」


そう穏やかに言いながら、さらに俺の腕に資料集を乗せてくる。
や、本当これ以上は無理だって。

訴えようとしたが、視界に入った彼女の動揺している表情を見て、言葉を呑みこんだ。


「…わかりました。千明、行こ」


俺にそう声をかけ、踵を返し、階段に向かう彼女。
一応森田先生に頭を下げて、ふらつく足を必死で動かした。







職員室は考えてなかった。
だって、校内で一番嫌いだし、基本行きたくない場所だし。


でも、今は森田先生に感謝。
もうこの重い教材なんてどうでもいい。




彼女が視界にいてくれることが、こんなに安心できるとは思わなかった。



この腕が空っぽだったら触れることもできたのに、と少し邪な気持ちになった。



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