蜜蜂
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「…久しぶり。」


資料室の机の上に箱と地図を置きながら、彼女に話しかけた。


「うん…最近会ってなかったもんね、なんか変な感じ。」


彼女はこちらを見ずに、資料集を棚にしまいながらそう言った。


嘘つき。


俺は心の底で言葉にしたが、口には出さなかった。
代わりに吐く。


「…最近会えなくて寂しかったんだけど」


とても小さな声で、でも聞こえるように唇をしっかり動かして言った。
寂しかった。
どこにいても君を探すほど、心が渇いていた。
でも、それをすべて言葉にするのは難しくて、言葉にしていいのかもわからなくて、いつも喉元で詰まってしまう。


「…?」


彼女の反応がない。
いや、反応もなにも、棚に資料集をしまう手が止まっている。


「…杏花?」


心配になって彼女の隣に行き、名前を呼んだ。
すると、彼女は肩をビクリと揺らしながら俺を見る。
その際に、しまわれるはずだった資料集が床にバサリと落ちた。



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