蜜蜂
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思いきり突き飛ばされた俺はふらつく。
彼女ははっとしたように俺を見て、下唇を噛みしめて目をそらした。


「っ、ごめんなさい。」


そう言って、戸を開けて出て行こうとする。
俺は戸が開く前に彼女の手首を掴んだ。
掴んだ手首のあまりの細さに、心臓が弾んだ気がした。


「…離して、千明。」


「離したら逃げるでしょ。」


か細い声の彼女。ねぇ、どうして。


「さっきのはごめん、びっくりしただけだから。…お願い、私早く帰らなきゃいけないの。」


そんなの言い訳のくせに。
それなら手伝いなんてせずに帰ればいいのに。



「…ねぇ、なんで俺を避けるの。」



彼女の言葉に答えず、尋ねる。
その言葉を紡ぐと同時に、彼女の手首を掴む手に力を込めた。



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