蜜蜂
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「避けてなんて…」


「どうして昼屋上に来なくなったの?
その指、どうしたの?
…聞きたいこと、たくさんあるんだけど。」


「…お昼に行かなかったのは忙しかったからよ。
…これは……別にいいでしょ。」


彼女の手に力が入るのがわかる。
なら、どうして。


「避けてなんかない。会う機会が減っただけよ。
…ね、もういいでしょう?離して。」


逃げるように手を引こうとする彼女。
そんなことはさせまいと、更に手に力を込めた。


「……じゃあどうして、こっち向いて話してくれないの」


「!」


彼女が息を呑むのがわかった。


『…ちゃんとね、目を見て話してほしかった。それだけを望んでたの。』


「…杏花が言ったんだよ。
目を見て話さないと不安になるって、それだけを望んでたって。
…なのに、……なんで目を見て話してくれないの。」


彼女のこわばった背中に尋ねる。
今日会ってから一度も目が合ってない。
今までそんな日は、一日もなかったのに。




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