蜜蜂
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「…いいでしょ別に」


「きょう」


話そうとした時、彼女が振り返って俺を見た。


「離してって言ってるじゃない!
どうしてそんなこと聞くの?
千明には関係ないでしょ!!」


今日初めて見た彼女の目。
叫ぶように言う彼女は、一瞬隙のできた俺の手を振り払った。
そしてそのまま引き戸の扉を開けようとする。

駄目。

ドアノブを回された扉を力強く手のひらで叩き、押し閉めた。
彼女はその際の大きな音に驚いて、静止する。
俺は、力の入った肩に触れようとした右手を何とかして引っ込め、彼女の背中に頭を寄せた。

なんとなく、触れてはいけないような気がして。

手を扉についたまま、彼女に触れることなく、一定の距離を保った。


「…行かないで。離れないで。
関係ないとか…言わないで……」


口から突いて出た言葉。
そんな叫ぶように、俺を拒絶しないで。
ただ、そばにいたいだけなんだ。


ただ―…







「ただ、すきなんだ―……」






目を瞑って口にしたのは、君への愛の言葉。
彼女の背中に頭を寄せることしかできない自分が、酷くもどかしかった。




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