蜜蜂
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「………ない」


考えた結果、そう言った。
だって俺、杏花に告っただけだし。
亜也には迷惑かけてない、うん。

頭の中でそう思いながら亜也を見ると、口角を上げて笑っていた。
と思ったら―…


「とぼけたって無駄なのよ!」


笑っていた顔を怒りに塗り直し、大声でそう言いながら俺の胸ぐらを掴んできた。
俺は、いきなりすぎて反応できず、「ぐぇ」とかうめきながらそのまま引っ張られた。
机を挟んで、俺は中腰で亜也の顔を見る。近い。
何やら神妙そうな、でもどこか怒りを含んだ表情。
何?


「…きぃ」


「杏花?」


聞き返すと、すごいいきおいで睨まれた。



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