蜜蜂
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「……て言われてもなぁ…」


廊下を歩きながら独り言を呟いた。

もし探して会ったとして、杏花に何を言えばいい?


「けがしたんだって?大丈夫?」


なんて告った後にすがすがしく言えるほど、俺は図太くない。
きっと彼女を前にしたら、何も言えずうつ向いてしまうのがオチだ。


「女々しい…か」


ヤケに突き刺さった、ヒカリの言葉。
確かに傷つくのが嫌とか、女みたいな考えかもしれない。
でも、誰でも臆病になるものだろ?
多分俺だけじゃないはずだ。

とにかく、ヒカリが俺を動かすために言った言葉なんだ、と、思い込むことにした。





「あ、千明じゃん」


ほら来た。
なんで話しかけてくるんだよ。
前方からやってきたのは恵里佳。杏花と映画に行った時に出くわしたやつ。
こちらに手を振ってきた。


「どうしたの、そんなキョロキョロしてさ。
何か探し物?」


下からのぞき込んでくる恵里佳の指摘に、心の中で苦笑いした。

無意識に彼女を捜していた自分。
俺の中は、どれだけ彼女に支配されてるのだろう。


「…別にいいでしょ。俺行くから」


そう言って、通り過ぎようとした時。



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