蜜蜂
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「何が?」


ぎんぞーの問いかけに、何故か鼓動が早まった気がした。


「誰もが傷つかない世界ってのは、人間の掲げる最大の目標だからな。
お前の考えは間違ってない。むしろ正しい。
でも、そこにお前はいるか?」


ぎんぞーは組んでいた足をほどき、少し前傾姿勢になって言った。
少し縮まった俺との距離。
そして俺の頭に手をのせ、目線が合うように無理矢理頭を動かされた。



「お前は他人のために自分を捨てた。
捨てる前のお前は、自分のために何を望んでた?」



ぎんぞーの言葉に息が詰まりそうになった。
真っ直ぐ見据えて目を反らさないぎんぞーの視線が、俺に突き刺さる。

俺が、何を望んでいたか?

そんなの、



「…忘れたよ」



ぎんぞーの目を見て笑って言う。
その瞬間、生温かいものが頬を伝った。



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