蜜蜂
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立ち上がる相手に、あたしは手を伸ばした。
だが、制服の袖を掴んで引き止めたのはいいが、何を言っていいのかわからなくて、目を泳がせてからうつ向いてしまった。
自問自答する。

なんであたしは手を伸ばしたの?

そんなあたしの頭を相手はぐしゃぐしゃにしてきた。
驚いて顔を上げると、あたしを見ている目と視線がぶつかった。



「俺ね、九組の東条千明って言うの。
名前で呼んで。俺もそうするから」



そう言って、千明が綺麗に笑っていたのを今でも覚えてる。
あまりに綺麗に笑うから、頭の中にこびりついたように離れなかった。




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