蜜蜂
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「…千明?」


恵里佳が不思議そうに俺を呼ぶ。
それに反応して、背けていた顔をそちらに向けた。
その瞬間、恵里佳が息を呑んだことなど気づかずに、俺は笑う。




「…忘れる方法を忘れたんだよ。」




不意に口をついて出た言葉。
それと同時に、堰を切ったように溢れる。



「駄目なんだよ、忘れようとするとあいつは俺の中で大きくなって、嫌いになろうとすると今以上に好きになる。
…なんとかしようとする度に、あいつが…杏花が―っ!」



杏花の名前を言葉にした瞬間、自分でも驚くほど心臓が悲鳴を上げた。
呼ばないようにしていたせいか、それは留め金を無くしたように、溢れて止まらない。


「―…っ」


伝う生温かいものに身に覚えがあって、でもそれを止める術を知らなくて。



なんとか服の袖で拭おうとした時、視界が暗くなった。



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