蜜蜂
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『どっか?』


聞き返してくる。
無理もない。そう言った俺が一番驚いてる。


「お礼まだしてない。メアドと番号のお礼。」


『いいよそんなの。あんなの日常でしょ?それにそんなマメな人じゃないでしょう?』


言い返してくる。
きっと向こうで首を傾げているだろう。


「あー、じゃあはっきり言う。俺ね、杏花のこと誘ってんの。……だめ?」


あ、今向こうで息を飲むのが聞こえた。


『…私、表で近づかないでって言ったのよ?』


「うん。」


『なのに誘うの?』


「うん。」


『……はぁ。』


彼女は大きなため息を吐いた。
そして一言。


『…今回だけだからね。』


「…うん、ありがと。」


よかった、電話で。
よかった。目の前にいなくて。
きっと今、すげーにやけてる。

俺かっこわりぃ。

そう思いながら、彼女が目の前にいないのをいいことに、右手でガッツポーズをつくった。


『じゃあ、時間とか決まったらまたメールして。勝手に決めていいから。』


「ん。でも行きたい所は考えといてね。じゃないとお礼にならない。」


『わかった。じゃあまたね。』


「ん。」



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