蜜蜂
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「澤木さん?さっき教室出てったよ。」


二年二組に行き、クラスの女子に聞くと、顔を赤らめながらそう言われた。


「…そっか、ありがと」


俺はお礼を言ってまた歩き始めた。


「…はぁー」


長いため息。
周りにいたやつらが振り向いたりしたが気にしない。

なんで杏花はじっとしててくれないんだろう。

俺に彼女の行動を制限する権限なんてどこにもないけど、すれ違いが多いと思ってしまう。

…前にも杏花を探したことあるけど、見つかんなかったよな…。

会いたいと思うと絶対に見つけられなくて。
普段ならすぐ目に止まる蜂蜜色が、まるで色を無くしたかのように見えなくて。


ねぇ、どこにいるの?



「前は…裏庭だったっけ」



息切れして座り込んでたら杏花が来たんだよな。


「…」


足を階段のほうへと進める。
確信とかそういう確かな物は何もなかったけど、なんとなくそこにいる気がした。

それにもしいたら、いわゆる"運命の赤い糸"って感じだし。

我ながら女みたいなことを考えたと思うけど、信じてみたくなったんだ。



杏花となら、信じてみたくなったんだ。



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