蜜蜂
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「眼鏡は前もかけてたよ?
髪はいつもの色だと目立つしバレるでしょ?だから頑張ったの。」


眼鏡…してたっけ?
どうも俺の中では、初対面の時の杏花の印象が強いっぽい。


「だから集合は午後からなんだ。何?染めたの?」


「んーん。染めると色が浮いてくるからバツ。
自毛なのに違うって言われるの面倒だし。
これはスプレー。なかなか色ついてくれなくて…。」


そう言って自分の髪に触れ、クルクルと遊ばせていた。


「そっか…なんかごめん。」


「…?どうして謝るの?」


横にちょこんと座った杏花は小首を傾げながら聞いてきた。


「だってさ、こんなに準備しなきゃなんないの俺のせいじゃん?
なんか悪いことしたなぁって。」


「そんなの気にしなくていいよ。OKしたのは私なんだし、ね?」

そう言いながら、俺の眉間をほぐすように触れた。
彼女のその優しさに少しだけ表情を緩める。
そして立ち上がり、杏花に手を差し出した。


「…じゃあ行こうか。」


手を伸ばしてもらうのを待つのは少し恥ずかしくて、少し顔が染まった気がした。
でも、彼女が笑って手を伸ばしてくれて、そんなことはどうでもよくなった。




ああ、この時間が続けばいいのに。





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