蜜蜂
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「…杏花、これがいいの?」


「うん。」


「…あえてこれなんだ。」


「だって、一人じゃ怖いでしょ?だからいい機会だと思って。…もしかして千明、こういうの苦手?」


「ううん、平気。」


そう答え、彼女の手にある飲み物の片方を受け取る。
中身はカフェオレ。甘いやつ。

赤褐色の映画館で、彼女は周りを確認してから眼鏡を外す。
その際に小さくため息の音が聞こえた。


「そんなに心配しなくても気づかないと思うけど。」


「用心は大切なのよ。……それにしても、そんな甘い物飲むんだ?」


「うん。杏花のは?」


「ブラック。」


「…苦いじゃん。」


俺は顔をしかめた。
そんなもの飲んだら、確実に死ぬ。


「私にはカフェオレのほうが毒なんだけどな。吐き気しない?」


「全然。極甘党だから、俺。」


そう言いながら彼女にカフェオレを近づけると、拒否の手が飛んできた。
振り払う手がカフェオレにあたりそうになって、慌てて遠ざける。


「ちーあーきぃー」


「ごめんごめん。ほら始まる。」


そう笑顔でかわしながらスクリーンを指差すと、赤褐色の電気は切れ、映画のCMが流れ始めた。
杏花は渋々というようにそちらに向き直った。
素直だなぁと思う。



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