蜜蜂
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…何か聞こえた?俺、今呼ばれたりした?
顔を上げるとそこには、


「…杏花。」


「うん。」


俺の前にしゃがんで、じっと見てくる彼女がいた。
眼鏡はしてない。今日はコンタクトなのか。


「どうしたの?気分悪いの?」


俺の手をどけ、自分の手を俺の額に当て、自分の体温と比べる彼女。
その仕草に吹き出してしまった。


「…何よ、心配してるのに。」


眉間に少し皺を寄せながら彼女は文句を言う。
可愛いなぁと、素直に思った。


「待ってたんだよ、杏花のこと。」


そう言って、膝に乗せた腕に頭を預けながら笑って見せた。


「…待ってた?私を?」


彼女は首を傾げて、また少しだけ眉間に皺を寄せた。


「どうして?何かあったの?」


「携帯。」


「携帯?」


「すっげー電話した。」


そう言いながら、未だ額に手を当てたままの彼女を見る。
すると彼女は手を離し、俺と同じように頭を腕に預けながら、


「留守番中だよ。今日忘れたの。」


と、平然として言った。



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