蜜蜂
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「…。」


その瞬間、すごく睨まれた。まさに無言の訴え。
「何で来たの」と言いたげだ。
今日の彼女は昨日とうってかわり、眼鏡をしていた。
彼女の眼鏡のレンズごしに俺はどう映っているんだろうとか、昨日は眼鏡してなかったけど見えてたのかなとか考えながら、手を振ってみせた。


「…はぁ。」


彼女はため息を吐き、席を立ってこちらに向かって歩いてきた。
女に「ありがとう」と礼を言い、「こっち」というように俺に目配せしてくる。
俺はそれに従い、彼女の後をついていった。





着いたのは裏庭。
一日中陰ってジメジメしているこの場所に来る人間は、まずいないだろう。


「で、なぁに?」


彼女、澤木はこちらを向いて尋ねた。
先ほど向けられたのと同じ目で、そして言葉が不機嫌そうに聞こえたのは、きっと見間違いでも聞き間違いでもないだろう。


「お礼を言いたかったんだ、昨日の朝の。先に謝ってくれたからさ。」


そう言って笑ってみせる。
すると彼女も笑い、壁に背中を預けながら、


「ふーん…東条君がそんなこと気にする人とは思わなかったから、ちょっとびっくり。」


と、何故か少し楽しそうに言われた。



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