蜜蜂
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「千明にぃね。
うんとさ、ちょっと前にこの辺りで遊んでた時に見たことあるんだ。
髪の赤い千明にぃ。」


髪の赤い俺。
確かに一度、ヒカリと髪をすごい色に染めようと、俺は赤、ヒカリは青に染めて事があった。
さすがに学校にそれでは行けないから、髪を赤く染めたのは春休み…4月前だから……半年ほど経っている計算になる。
ちょっと前じゃなくて、かなり、だ。


「その時、女の人が変な不良っぽいのに絡まれてたんだよ。で、それを助けたのが千明にぃ。」


…あぁ、そんなこともあったなぁ。
目の前に絡まれてる大学生がいて、髪色が違うだけでいつもと違う自分名気がして、何故かなんでもできるような気がしてたんだっけ…。


「でさ、千明にぃすっげーかっこよかったんだよ!」


「は?」


さっきからキラキラした目を向けられている。痛い。


「絡まれてる女の人の首に手まわしてさ、『これ俺のだから』って言ったんだぜ!」


「…。」


「で、不良がいなくなって、女の人に『じゃ』って言ってそのまま帰ってったんだよ。
ドラマ見てるみたいですっげーかっこよかった!!」


「…。」


見られていたことより、こうやって報告されるほうが恥ずかしかった。
気分が高揚していた自分が憎い。
今度からは絶対に気をつけよう。小学生の教育上にもよろしくない。



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