蜜蜂
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「でさ、千明にぃ。」


「ん?」


顔を引きつらせていた俺は、いったん少年のほうを向いた。
啓は、満面の笑みで赤い髪をいじりながら、こう言った。



「俺のこの髪、千明にぃの真似なんだー!」



「……。」


自慢げに胸を張ってそう言う少年を、俺は穴があくほど見てしまった。

…俺の真似?
……俺のせい…だよな?


「…啓。」


「何?」


「今すぐ色、戻せ。」


「なんで?似合わない?」


「似合ってる。似合ってるけど駄目。お前まだ小学生だろ?親が泣くぞ?」


説得に試みる。
俺が小学生のころ、芸能人や雑誌のモデルに憧れて近所のやつと茶髪に染めた時、「不良になったの?!」と姉に泣かれた。
駄目だ、泣かせるのは。
それ以前に、学校という閉鎖社会でいじめの的になる可能性もある。
それに啓は茶色を通りこして赤いし、危ないだろう。
が、


「大丈夫だよ、父さんも母さんも綺麗な色って誉めてくれたし。
姉ちゃんもずぅっと前から染めてるし。」


と、まるで俺の言葉が変とでも言うように啓は首を傾げて見せる。

いいのかよ、啓の親。
止めろよ、息子の行為を。



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